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nadoya ebisu Fuyu Galley exhibition vol,9

解体清祓は恋の魔術

by Yuji Mizuta

details : comming soon
Necromancy short.ver

ミズタユウジは、2020 年 11月より1年間、などや恵比寿でアートプロジェクト「The un-grieving process - 悲しまない5段階 -」を実施、異分野で表現活動を行う4 名のメンターとの対話と実践をとおして" 過程 "という要素が自らにもたらす変化を表現し、公開、録画記録してまいりました。この「悲しまない5段階」は、テキスタイルの制作を軸に表現活動を行ってきたミズタにとって、パフォーマンスや音という表現手法の他、コミュニケーションや発信など、作品制作に変化をもたらしています。
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本展は、ミズタがこの場所で1年間見続けてきた景色、体感した空気やもたらした感情の全てを込めた、彼自身のテーマとしても掲げている " 布との触れ合いを求めるための行為や行動 "そのものです。纏う、包む、縛るといった行為の延長にある一瞬の表情や、染色、プリント、刺繍によって再現された情景、ミズタ自らによるパフォーマンスから生み出される熱量など、布の存在を媒介としてこの建物が存在したおよそ60 年の間と、などやとして起こったさまざまな現象に耳を傾け思いを巡らせることを、日本古来の儀式である「解体清祓」になぞらえて表現しています。
家屋の守神に対して感謝を捧げると共に、この場所に関わった多くの方々の創造力や才能が、この場所がなくなった後にも更に発展してゆくことを、本展を通して祈ります。

kaitaikiyoharai
Photo: Yukikazu Ito
KAITAIKIYOHARAI short.ver
寄稿

ガラスの向こうには、透けたきれのようなものが(例えばボンタン飴に付着したオブラートのように)正確に折り畳まれ、大切なものを何重にも包むようにして出来上がった迷路がある。目の前に立つと感じる圧迫感!

きっと体積が狂ってるんだ。

きれときれの間のぎりぎりの隙間を通り抜け中へ中へと向かうとそこにはもう誰もいなくて、でも誰かがいた気配と温度と湿度、匂いを感じ…確実にここで何かがあったに違いない!

むっとした空気を入れ替えようと軽い気持ちで窓の戸を開けてみれば春の風が一気に入り込み、あっという間に何もかも消し去ってしまった。

清らかで澄んでいて、少し寂しい。

アーティスト 勅使河原一雅(qubibi)

ミズタユウジは、布に恋しているという。恋の感覚ってどんなものか。

 

ミズタユウジと出会ったのは、2009年に六本木で開催されたDESIGNTIDEの会場だった。巻き上げ機をモチーフにしたような木製のオブジェに設置したロールに施されていたのは、緻密な構図と繊細なタッチの作品「STILL LIFE」。グラフィカルな文様や、単純な絵柄のリピートがテキスタイルデザインの基本だと思っていた私にとって、複雑に絡み合いながらも不思議な一体感を持つミズタの創作は、夢の世界に誘われているようで、強く心に残った。

 

新奇性に満ちた作品に感動を覚える一方で、少し気になったのはミズタユウジが「テキスタイルデザイン」という分野にこだわっている点だった。圧倒的な画力と豊かな感性は、定まった分類にカテゴライズするにはどことなく窮屈な感じがして、放出しきれないエネルギーの塊を、まだどこかに奥底に隠し持っているような気配さえした。

 

しかし、ここ数年のミズタの創作は大きく変化している。テキスタイルを媒介にすることに変わりはないが、その表現は自由で躍動に満ちており、作品の形態も実に多様で、あらゆる方向に伸びやかな変化を繰り返す。

 

2022年1月28日~3月12日にかけて、などや恵比寿浮遊ギャラリーを会場に行われた個展「解体清祓は恋の魔術」はその最たる例であり、築60年の家のなかで、時間、体験、感情が揺れ動く、瑞々しい表現が踊っていた。

 

などやの展示で使用された布は「蚊帳」。蚊帳はその名が示すとおり、蚊から身を守るために、麻を細かな目で織り上げたものが基本だ。うっすらと透けた風合いで、風がふくとゆらりゆらぐ清らかな存在ながら、空間を仕切り、害虫を寄せ付けないバリケードのような強さも併せ持つ。

 

などやで開催された過去展示のテキストをジョージア語に訳したものをグラフィックワークとして重ねたり、御簾のように空間を幾重にも仕切るインスタレーション、また衣装として身に付けたパフォーマンスも上演。多様に展開する表現を一貫するメディアとして蚊帳を用いている。蚊帳は、表現形態によって刻々と表情を変えながら、風にそよぎ光と影を映し出し、演者の動きにあわせて、特有の衣擦れの音が耳をくすぐる。展示空間のなかで時間を過ごしていると、虫除けのための機能性生地が、まるで生き物のように蠢いているような感じさえする。

 

この作品は、布が単に装飾を施すためのメディアではなく、時間の流れや人の行動に合わせて変化を繰り返す有機的な存在であることを教えてくれる。ときに害虫や寒暖からやさしく守り、触れ合うなかで五感を刺激する。そう考えてみると、私たちは肉体的にも精神的にもかなり布に依存しているような気がする。世界中の誰もが、たえず布と寄り添い、布に守られ、布で自己を表現している。布と人は、切っても切り離せない関係にあり、常に互いを求め合う。まさにこれは愛の世界だ。

 

きっとミズタユウジは、そんな愛の世界のなかをずっと巡ってきたのだろう。あまりにも深い愛情のために、適切な距離がつかめず、ときに盲目的になることがあったかもしれない。しかし、鋭敏な感覚はそのままに、現在は実におおらかに、そして自由に、そして深い愛情で布と向き合い、より自分らしい表現の探求が行われている。

ライター 猪飼尚司